mast卒社会人の制作活動

この記事は、mast Advent Calendar 2023 - Adventarの18日目の記事です。17日目は『2023年のまとめ』でした。 yudukikun5120.hatenadiary.jp


目次

自己紹介のようなもの

mast17→CS21 (情報理工学位P)→SIerのエンジニア1年目、という人です。

mastAdCの参加は4年ぶりらしく、ギリギリ交流があった19の方々も卒業してしまったわけで、時間の流れを感じます。

興味は ↓ な感じ。

by WordCloudMaker
このためにワードクラウドを作るアプリを書いてみた。 学生時代のコードを改修してGUIを追加した程度だけど。形態素解析機能もそのうち移植したい。あとなんかバグがたくさんある。

いちおう当時はモノ作る系のmastの1人で、映像とプログラムを作っていました。 (mast20以降のモノ作る系mast生を誰1人知らないのでコロナによる分断を深く感じてます。)

ダンス部と映像作らせてもらったりとか
youtu.be

Tweetを感情分析×時系列可視化で表現したりとか
https://tomoya-onuki.github.io/som_stacked/ youtu.be

落合先生の授業でメディアアートしたりとか
youtu.be

アイドルのMVメイキング撮らせてもらったりとか
youtu.be

という感じの人です。興味持ってくださった方はポートフォリオも見てください。
https://tomoya-onuki.github.io/

エンジニアリング的観点が少ないので補足紹介すると、

研究室では情報可視化を専門にツール開発に勤しんでいました。 鳥の移動データの可視化による研究者支援がテーマで、
卒論はこんな内容 →https://doi.org/10.1109/IV56949.2022.00055
修論はこんな内容 →https://doi.org/10.1109/IMSA58542.2023.10217617
です。

お仕事的にはビッグデータの分散処理システムの開発業務をしています。AWSを主に触っていて、最近はPythonをゴリゴリ書いてます。

映像につける音源どうする問題

学生の頃は周りに音楽を作れる人がいて、私が映像、友人が音楽という感じで共作をしがちでした。

けれども、社会人になってからはなかなかそういう繋がりも持てず、自力で作曲ができるわけでもなくという感じで...

「映像につける音源どうする問題」が私のここ最近の悩みでした。

フリー音源もありです。おすすめはzukisuzuki BGM - YouTubeさん。量も多くクオリティも高いのでおすすめ。大変お世話になってます。

でもやっぱり自分の意図を入れ込みたい!という気持ちがあるので、フリー音源から脱却したいわけです。

作曲できるようになろう!と思ったりもしたのですが早々と挫折。しかし幸いなことに現代では生成AIがいろいろなものを拵えてくれらしいです。

すぐに音楽を0から自力で作るのは諦めて「プロンプト作曲」をしてやろうという姿勢にシフトしました。(社会人、時間ないし。)

生成AIを使った制作

2024年は音源を生成AIに用意させるぞ!!!

と意気込んで試験的な作品を作りました。 この秋に導入した新たな機材(Lumix GH6, LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm/F1.7 ASPH)の試し撮りも兼ねて。

そうして出来上がったものが ↓ です。

驚いたのは生成AIの性能で、ちゃんと曲になってる(気がする)。
これからの制作にやはり生成AIはかかせないなぁと思いました。

MusicGenの紹介

Metaが開発したMusicGenという生成AIツールを利用しています。

github.com

GoogleColab上で実行すると、いい感じのGUIが立ち現れます。
そうしたらいい感じのプロンプトを入力するだけです。
(HuggingFace上でサクッと動かすこともできるが、15秒までしか生成できない制約がある。MusicGen - a Hugging Face Space by facebook

いろいろと試行錯誤しThe genre is hogehoge. The theme is fugafuga.というフォーマットのプロンプトを投げると良さそうだなぁとなりました。この「fugafuga」の部分に自分のポエムをぶちこみます。

ポエムは長すぎるとカオスな音源が生成されがちなので、できるだけ短くてかつキーワードを含めた英文が良さそうということも、試した知見として得られています。偶発性も狙って暗喩も織り交ぜます。

(短文でキーワードが含まれるって、俳句が最適なのでは?という気もしている。haiku promtに特化した生成AIで誰か卒論かいて。)

同じプロンプトでも生成するたびに違う音源が出力されます。なので何度か生成を繰り返して、しっくりくるモノを採用するようにしています。

さらに動画編集ソフト上でボリュームに緩急をつけるなどの簡単な微調整をしてあげます。

(自分の音源をパラメータとして用いることもできるので、ワンフレーズだけ作ってそれをベースに生成してもらうとかも今後試したいところです。)

所感

正直なところ素人耳ではAIが作った音源とはわからないものになったように思います。

こうなると生成AIで作ったことそのものが持つ単純な面白みは失われていく気もします。AIが作ったよといってグチャグチャな出力を見て喜ぶような時代は終わりですね。

一方で、誰しもが好きな方法で好きなように好きなモノを作れる(そして作らなくてもいい)という時代が加速するはず。たぶん。そして、そうならとても嬉しい。

わたしのような「音源作れなくて、作る勉強するのは面倒だけど、映像に音源は付けたくて、ただしフリー素材は嫌だ」というクソわがままも受け入れてくれる生成AIちゃんに感謝しかないです。

限られた時間と資源の中で、大切にしたい部分を守りつつ、生成AIも活用しながら、自分の思うままに作り続ける人がたくさんいると嬉しいです。

比較のための視覚表現

比較分析をする場面はかなり多いと思う。大学生なら実験や調査結果のデータを条件ごとにグラフにプロットして比較したいだろうし、新型コロナウイルスの感染者数データだって地域ごとに比較してみたいに違いない(?)。

しかしデータの視覚的な比較を正しく行うこと、あるいは効果的に行うことはなかなか難しい。(と思う)

 

 

視覚的な比較の3要素

Gleicherという人が提案した3つの要素。[1]

1. 並置 / Juxtapostion

要するにならべるということである。

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別々のビューで表示されるので、複数の比較対象が時空間的に分離している時に利用すると良い。もちろんユークリッド空間以外でも良い。

メリット:作るのが簡単である。

デメリット:見る人は記憶を働かせながら複数の表現を見比べる必要がある。

 

2. 重ね合わせ / Superposition

要するに重ねるということである。

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同一のビューに表示されるので、"同じ空間上にある"という印象が強くなる。とはいえ必ずしも同じ空間上のデータを表現しなければいけないということはない。時空間的に分離したデータならあえて同一空間上にプロットする意義を考えると良いかもしれない。

メリット:並置よりも記憶力への負荷が低い

デメリット:視覚的に雑然となりやすい。

 

3. 明示的提示 / Explicit Encoding

差を明確に表示するということである。

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メリット:差そのものが提示されるので見る人の作業量が少ない。

デメリット:他の方法に比べて、作るのが難しい。

*ここでは詳しく触れません。

 

 

並置

欠点

厚生労働省のオープンデータ[3]をもとに、新型コロナウイルスの各県における新規陽性者数の日毎の推移を示す折れ線グラフを作成し、これを並べることによって比較してみた。

たくさん並べるとひとつひとつの表現が小さくなってしまい、読み取りが難しくなることが欠点だ。ちなみにこのような小さい表現の並置を特にSmall Multiplesと呼ぶ。[2]

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折れ線グラフのSmall Multiples

 

どうすれば見やすくなるか

面グラフにすると多少見やすくなるかもしれない

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面グラフのSmall Multiples

 

さらに面グラフの変形であるHorizonGraphを用いると以下のようになる。新規陽性者数が多いほど色の濃い青で表現している。

ひとつひとつの図が小さい時は塗りつぶした方が良いのかもしれない。しかし、面積は量的なデータを厳密には表さないことに注意する必要があることを覚えておいてほしい。

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Horizon GraphのSmall Multiples
Horizon Graphについて

Hoirzon Graphは面グラフの変形で、量的データを表す軸方向(ここでは縦軸)を分割し下揃えで重ねるというものだ。

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通常の面グラフ

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2分割した面グラフ

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3分割した面グラフ

このようにしてHorizon Graphは作成される。

 

 

重ね合わせ

欠点

新型コロナウイルスの各県における新規陽性者数の日毎の推移を示す折れ線グラフを作成し、これを重ねることによって比較してみた。

比較対象が多くなると読み取りが困難になってしまうことが欠点だ。

 

県のような名義的な情報は色、特に色相を割り当てることで見分けることができる。色の選択にはカラーユニバーサルデザインを考慮するのが良いだろう。
カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット

色相の他に彩度や明度を使うことも考えられるが、これらは順序と結びつきやすいので不要な連想が起こる可能性がある。この場合ならば例えば平均値のランクに応じて彩度(あるいは明度)を割り当てるなどの配色が考えられる。

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折れ線グラフの重ね合わせ

 

どうすれば見やすくなるか

線の交わりが視覚的な混雑の原因だと仮定し、折れ線グラフの各頂点のみをプロットすると以下のようになる。(ある種の散布図とも言えるだろう)

重ね合わせの利点の一つは、重複によって疎密が表現されることである。以下の図を一見すると、毎日の新規陽性者数は1,000人以下に密集しているように見える。

*注意が必要だが、ここでは縦方向の疎密にのみ意味がある。

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線分の描画を取り除いたグラフの重ね合わせ

 

あるいは、7日間の移動平均を取ることで線分をなめらかにし線分のオーバーレイを少なくすることでも視覚的な混雑は解消できるだろう。

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7日間移動平均の折れ線グラフの重ね合わせ

 

他には、配色によって視覚的な混雑を解消する試みもあるだろう。

注目したい要素をハイライトする折れ線グラフを制作した。印刷物等では使えないが、インタラクションを追加することも効果的だ。

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注目したい要素をハイライトした折れ線グラフ

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注目したい要素をハイライトした7日間移動平均の折れ線グラフ




 

参考文献

  1. M. Gleicher et al., Visual comparison for information visualization, Information Visualization, Vol. 10, No. 4, pp. 289-309, 2011.
  2. Tufte, E.(1990). Envisioning Information, Graphics Press.
  3. https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html , 厚生労働省, 新型コロナウイルス感染症について(オープンデータ)

院試に落ちたときにしたこと

はじめに

そろそろ夏期の大学院入試の結果が出る頃でしょう。受かった人がいるということは落ちた人もいるということです。かくいう僕は2020年夏の大学院入試に落ちました。

大学院入試というのは大抵の人が受かるし、大学受験と違って浪人仲間がたくさんいるというわけでもありません。落ちた人は不安を和らげるべく「院試 落ちた」という感じでググって、いろんな記事を読むと思います。たぶん。

僕もやりましたし、先人の文章にずいぶん救われました。なのでこういった拙文を残そうかなと思い立ったわけです。

ちなみに結論から言うと、僕はその年度の冬の入試で合格をいただき進学しました。ここでは夏に落ちてからの話をします。

 

 

合格発表 (1日目)

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で私の大学院入試は例年より数ヶ月遅れました。当然ながら合格発表もその分遅れ、それは11月初旬にやってきました。

不思議なもので受験番号が羅列されたPDFを開いた瞬間に自分の番号がないことがわかりました。本当に不思議なものだけれど。その後に何度も見直しましたがあるわけもなく、肩を落としながら数少ない友人や両親に報告をしました。

内部の学生だったので落ちるはずはないとたかを括っていた部分もあります。

友人の多くは大学院に受かっている(これは聞かなくても合格率を見ればわかる)、あるいは就職先が決まり内定式を済ませています。来春からの身の振り方が決まり卒論に打ち込んでいる人たちに不合格を報告するというのは、気を遣わせるし恥ずかしいしよくわからない感情だったのでごく一部の友人への報告で済ませました。

その後にダメ押しでもう一度PDFを見ますが結果は当然変わらず、仕方がないので次にやるべきことを考えます。

 

やること1. 親に会う (2日目)

私は親元を離れて学生生活を送っているので報告は簡単にLINEで済ませましたが、やはりパトロンには直接会って相談をしないとなと思いました。それに、このままワンルームのアパートに篭っていてもなにも変わらないという気持ちもありました。

実家がすぐに帰れる距離なのが幸いでした。

いくつか相談し、選択肢を整理しました。

  1. 現在の大学院の冬試験を受ける
  2. 別の大学院の冬試験を受ける
  3. 今から就活する(21卒)
  4. 既卒で就活する(22卒)
  5. 休学(留年)して翌年に就活する(22卒)
  6. 現在の大学で研究生になって、来年の夏に院試を受ける

これらの選択肢は実現性を検討する必要があります。実現不可能なことに突き進んでも仕方ないです。一方でこの混乱の中すぐに選択肢を絞るのは危ないことでもあります。自暴自棄にやりたくもない選択をするのは良くないです。とりあえずしばらくは全ての可能性を残しながら進めるしかありません。

そのためにここからは検討材料の収集に入ります。

 

やること2. 研究室の教授に相談する (3日目)

これも大切ですね。大学院に進学するということは、研究室を受けるのと同じようなものですし、受け入れてくれるはずだった教授に結果を報告するのは大切なことです。

ことの顛末を説明し相談したいという旨のメールを出した数日後にオンラインで話をしました。

 

まずは入試の内容のおさらい。私の試験内容は学科(線形代数解析学)と面接で、両方ともにつつがなく済んだというのが私の感覚です。この段階でも決定的な原因はわからなかった。

教授はこれまでに入試に落ちた学生の傾向としては学科試験の点数が低いことだという風に言われたので、おそらくそちらで失点が多かったのだろうという結論になりました。

大学の教授は試験結果を知っていて、それをこっそり学生に教えてくれるなんていう話を聞いたりしますが、少なくとも私の受けたところはそういうことはなかったです。

 

それから別の大学院でおすすめのところをいくつか紹介してもらいました。これはいい検討材料になったと思います。

あと、わざと単位を落として留年する人もいるがオススメはしないということも言われました。自分としてもそこそこ進んでいた卒業研究を放棄するのも嫌だったので留年はないなという感じでした。(言われるまで考えもしなかった。)

 

やること3. 就職エージェントの窓口に相談する (13日目)

世の中には就職活動をサポートしてくれるサービスを展開している会社があるので、その窓口に連絡してみました。結論から言うと彼らの主張は「はじめから既卒の就職を視野にいれるのはやめた方がいい」「冬の就活はおそくとも1月には面接の対策を立てないといけない」という二つでした。

まあこれから就職ってのも不可能ではないかと思いつつも、紹介される就職先はあまり行きたい業界でもなく困ったなという感じだったのを覚えています。

 

ここらへんから時間がないなという感覚がリアルになってきました。あまり考えないようにしていたのですが、全ての選択肢を残して就活も入試対策もして、そのうえ卒論も書くとなると相当大変なわけです。

 

やること4. 大学の就職課に相談する (19日目)

就職の可能性について検討材料があまりに少なかった(あるいは偏っていた)ので、就職課にも連絡しました。ご時世なのでオンライン相談のみで、予約がだいぶ埋まっており11月末になってしまいました。

相談する中でどうやら私の進学を諦め切れてない雰囲気を感じ取ったのか、就職課の方は大学院入試に向けて背中を押してくれました。

もちろん就職のことも教えてくださったのですが、なんだか人生相談みたいな感じだった気がする。

いろんな立場の意見を聞くことは大切ですね。

 

やること5. 別大学の教授に話を聞いてみる (20日目)

一度、大学院受験に失敗して完全に日和っていた僕は、仮に院進するとしても複数校を受けたいと思いました。簡単に言えば滑り止めという奴です。

とりあえず自分が既に知っていて興味のある他大学の先生にアポを取って研究室の紹介をしてもらいました。これは早い方がいいです。思い立ったらすぐにメールを出した方が良い。

 

いくつか連絡を取ったのですがどの先生も快いお返事をくださいました。大学の先生からしたらよくあることなのかもしれません。

ここで忘れてはいけないことは教授には教授の都合があると言うことです。研究室で受け入れられる学生数は限りがあるからホイホイと誰でも受けさせるわけにはいきませんし、「受験したけど入学しません」みたいな学生ばかりでは困ります。大学入試みたく数うちゃあたるみたいなことは現実的でないということです。(そもそも大学院進学はやりたい研究テーマがあってこそですし、厳選するうちに1つか2つくらいに絞られていくわけですが。)

なのでここでは遠慮することなく「滑り止めです」ということを伝えました。変に嘘をつくのも無意味ですし、どうせ大学院進学に再挑戦するなら夏に受けたところが第一志望でしたので。

 

ちなみに、出願締め切りや試験日をきちんと調べておいてください。他大学を受ける可能性が少しでもあるならすぐにやるべき。

 

実名は出しませんが最後に「良い選択をできるように努めてください」と言ってくださった先生がいて本当に救われる思いでした。世の中は優しい人がたくさんいるもんです。

 

 

選択肢を絞る (約1ヶ月)

ここらへんまでくるとだいぶ心が決まってきます。

よし!大学院に進学しよう!

 

理由は3つ。

  1. 21卒にしろ22卒にしろここから就活しても納得いく結果は得られないだろうと思った。
  2. 卒論がいい感じに進んでるのでそれを放棄して休学(あるいは留年)するのは不本意だった。
  3. 学部で得たものに満足しきっていなかったので、大学院に行きたい。

 

無理に就職なり休学なりしても履歴書的に空白がないということしか得られないのだったら、そういう選択は良くないだろうという感じですね。

 

冬の院試に向けて

夏に受けた大学(第一志望)の他に2つほど受けることにしました。(だいぶ日和ってる)

冬の院試の出願は12月中旬~1月中旬までが多いのでここから爆速で書類作成に入ります。

もちろん試験対策と卒論も並行するわけですので、大学生にはないような健康的な生活をしていました。

一番大変なのはここまででした。やるべきことは決まったので、ここから後はとにかくやるのみです。

 

やること6. 友達とご飯に行く (n日目)

ここまで慌ただしくいろいろしてきましたが、親しい人とご飯に行くことを忘れずに。

 

正直な話、大学院に落ちるのは精神的にあまり良くないです。

基本的にみんな通る試験に落ちたことで自己肯定感は下がるし、社会に出るのが目前の時期に将来設計が壊れたという事実は果てしない絶望を叩きつけてきます。

そんな心境でアパートの1室で1人で食べる夕飯の悲壮感たるやといった感じです。

 

なのでとにかく友達とご飯に行ってください。コロナで外食はしずらいかもしれないけれど、でも、自分の精神状態も同じくらい大事ですので。

 

自分はというと、ちょうどその頃は趣味の映像制作が佳境でして、好きなことやってたら気が紛れて気持ちは上向きなりました。

大学院に落ちた人のブログを読むのも一興です。こういうことがないときっと読まないので。

友人もみんな同情的ではなく、かと言って「がんばれ」とも言わないのでそれも非常に助かったなという感じです。

 

 

まあとにかく、いますぐ死ぬわけではないので、心の余裕を取り戻しつついろんな人の意見を聞いてみて決めるのが良いかなと。

ただ、時間には限りがあるのでスケジュールを立てることだけは早めにしたほうがいいです。

 

これを呼んでくださった方が、良い選択をできれば僕も嬉しいです。

映像とフレーム

僕の好きな映像監督に奥山由之さんという方がいる。近年の代表作としては「米津玄師 - 感電 MV」や「星野源 - 創造 MV」などがあげられる。どれも話題になった曲なのでみんな奥山監督の作品を一度は見たことがあるのではないだろうか。

そんな奥山監督の最高すぎる映像が公開された


Mame Kurogouchi 2021 Fall Winter Collection

吸い込まれるようなトリックの映像だけど、ここで重要なのは「フレーム」という要素だ。鏡と枠を駆使して奥行きのある不思議な体験に仕上がっている。その立役者が「フレーム」である。奥山監督の作品はフレームを意識しているように僕は思っている。

 そんな監督の作品を紹介しながら映像とフレームについての所感をまとめてみた。

 

 

お別れの歌 に見る 縦動画のメディア特性


never young beach - お別れの歌 (official video)

奥山監督の作品と初めて出会った作品はこちら。小松菜奈の可愛さが光る作品だけれども、なぜここまで「可愛い」と感じるのか。それは「縦動画」という「フレーム」があるからだ。

スマートフォンの普及とSNSによる動画シェアの文化の醸成によって縦動画には特殊なメディア特性が付与された。それは「日常感」というものである。多くの人がスマホで撮影しシェアする縦動画は、まさに日常を切り取ったもので二人称的な映像が多い。この二人称視点が持つ「日常感」が「縦動画」とセットになり、そのメディア体験の習慣が人々に根付いた頃、この作品は発表された。

とはいえ近年ではその「日常感」という特性も薄れつつあるように思う。スマホの画面に特化した縦動画の広告などが増えてきたからだ。まあメディア装置が変わればコンテンツの様式が変わるのは当たり前かもしれないけれど、スマホで見るからと言って何でもかんでも縦にすればよいというものでもないと思う。アスペクト比は今や大切な表現の1要素になっているし、その選定は作品を左右しかねないものになった。

 

 

彗星 あるいは 平面的な物理フレーム

この映像を通して奥山監督の提示する「フレーム」は物理的なものになった。これは今までもあった手法だと思う。乃木坂のAll MV CollectionのCMでも使われていたし(乃木坂の方が後出だけど)、 僕も観客が入る現場の撮影案件ではお客さんのスマホ越しの画を撮ったりしてきた。ただ今後の布石としてこういう映像を作った、つまり「物理としてのフレーム」を示した、ということは非常に大事になっているのだと後から気がつくことになる。

 

 

感電 そして 空間的な物理フレーム


米津玄師 MV「感電」

この映像は公開されてから何度も見た。とてもとても好きだ。曲が良いというのもあるのだけど、撮影がすごく良い。この映像の貢献は「物理としてのフレーム」を空間に拡張したことである。ひとつまえに紹介した小沢健二「彗星」のMVはインターフォンのモニターという“平面的な”物理フレームであったが、感電のMVでは“空間的な”物理フレームとしての「メルセデス・ベンツ・W123」が出てくるのだ。

この映像内では視点が車内と車外を自在に行ったり来たりする。車内にある視点がズームしてフロントガラスのフレームが画角から外れると、視点は車外に移動しており、その後ベンツの扉を開けて車内に戻るというような演出がある。フレームと映像特性を生かした映像ならではの視覚体験であるけれど、その特性を主張しすぎることのない不思議で自然な体験になっている。

 

 

創造 する 形而上のフレームがもたらす調和


星野源 – 創造 (Official Video)

星野源の曲は毎回のように傑作である。そして創造もやはり傑作だった。さて、創造では監督が提示してきた「フレーム」が「物理的なもの」から「概念的なもの」に変化する。縦動画も概念的といえばそうであるので、あるいは戻ったと言っても良いかもしれないが。

このあたりから良さを明確に説明することができなくなってくる。頑張れば出来かもしれないけれど、この映像の醍醐味は、なんとなく気持ち良い視覚体験であると思うので下手な説明は野暮だと思う。フレームが溶け出して、あるいは調和して純粋な視覚体験としての楽しさがそこに際立ってくる。けれど単にテンポの良い綺麗な映像の連続ではなくて、そこには意味が見え隠れする。意味を視神経で感じることができるような映像。

 

 

映像とフレーム


Mame Kurogouchi 2021 Fall Winter Collection

そして冒頭で紹介したこの映像になる。ここでは「物理的なフレーム」に立ち戻ったのだけれども、彗星とも感電とも明確に違う点がある。それはフレームの多重構造である。正しく配置された鏡と完璧なモデルの動きによって、この映像のフレームの多重構造は不可思議な体験を視聴者に提供している。見てるうちに「鏡」が使われていることはすぐにわかるが、この鏡が何重にもなっていることがわかり、その鏡を通り抜けながら後退する視点に僕は混乱する。(そんなはずはないと思いながらも僕はカメラが鏡をすり抜けたように感じてしまった。)やがてレンズはその“秘密”を画角内に捉え、納得と感嘆を抱いた僕にすぐさま追い打ちをかけるように最後の演出がやってくるのだ。

「お別れの歌」で培ったスマホに特化した縦映像の技術と、「彗星」における平面的な物理フレームの明快さと、「感電」の空間的な物理フレームのもつ自在さと、「創造」の概念的なフレームを通して実現させた視覚的な調和をもって、この映像は単純な視覚的楽しさの極みのひとひらを僕に提供してくれた。

展開するためにカットを増やすのやめようと思って...

最近お気に入りのMV


米津玄師 MV「感電」


あいみょん - 裸の心【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 

どっちもカメラマンが強い...って感じがする

「感電」は大げさなCGとか一切使ってない(と思う)なかで、ワンカット風に場面を展開させていく。相当な準備のもと作られたことがわかるし、なによりカットの切れ目が不自然なくらいわからなくてすごい。車の中の視点にすることで、中と外ができてスムーズにLookが変化していくのが面白いし発明だよなと思った。

 

これは結構重要なことで、映像のメディア特性をどの方向で伸ばすかということによってコンテンツのあり方が変わってくるのだと思う。なんでもそうだけどコンテンツを作るなら、そこにはメディアの特性が乗っかってくるわけで、それをきちんと考えないとダメになる。

 

あと、イントロのパートは流れ無視して遊べるよなとも思った。MVの表紙的な感じで。とにかくカメラマンがプレイヤーになってて羨ましい映像なんだよな。

音楽はプレイヤーがいて何度も演奏できるけど映像は作ったら完成しちゃうから、その段階でどこまでプレイできるか考えるといいよね。

 

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「裸の心」もとんでもねえのよ

これ多分スタビライザーとか使わずにでかいシネマカムを肩に担いでるんだろうなって感じがする。プロは本当に手ブレしないからすごいよな。

ワンカットでLook変えるとなるといろんな色の照明を光らせたくなるけど、ここでは基本的に明暗で繰り広げていくのがすごく好き。「暗くて見えない」というのも大切なことで、映像は被写体を綺麗に映すのではなく空間の佇まいを映し出すものだということをこのMVは改めて教えてくれる。明るくなってからの黄色い服の色が周囲の白壁に滲むように反射しててそれもまた好き。こんなに滲む映像を撮れるのかって感じ。

 

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~雑談~

どちらも今シーズンのテレビドラマの主題歌なわけだけど、最近また音楽産業とマスメディアの形態が変わったような気がする。2010年ごろまではマスに向けたヒット曲というものが存在していたが、音楽コンテンツの消費形態が変わりつつあった2010年代ではヒット曲というものがとても少なかった気がする。しかしここ数年になってまたヒット曲がヒット曲と謳われるようになってきたような気がなんとなくしている。

FIXはもうダメかもしれないので早くスタビライザーが欲しい。

乃木坂46 25thシングルのカップリング曲「I See...」のMVが神だったので感想を書いてしまった。


乃木坂46 『I see...』

 

SMAPっぽいとのことでトレンドになっていたけど、確かに...となった。この曲に含まれる要素として乃木坂じゃない「何か」があるなら間違いなくSMAPだと思う。

 

このMVではメンバーそれぞれに役割がある。黒子たち、黒子のリーダー、そして日常を送る女の子。

黒子たちはリーダーに従って、日常生活を送っているメンバーたちの元に「お立ち台」を持ってゆく。そして、その上に立たせみんなで軽快に躍りだす。

曲の後半では「お立ち台」の上とその周りで踊っていたメンバーたちが黒子のリーダーの元に集まり、今度はそのリーダーまでもを「お立ち台」に登らせて全員で踊り出してしまう。乃木坂のMVにはよくあることだけど、変わったストーリーだ。

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ただこのMVにおいては、ストーリーの色はそこまで強くない。歌詞とリンクして受けて取れる描写もあるけれど、それを上回る「愉快」な様が全体の印象として強く残る。この「愉快」の作り方が最高なのだ。

なんというかバランス感覚がすごい。「お立ち台」というきっかけでみんなが踊り出して自然と笑顔になり「愉快」が作られているあたりにストーリーの必要性を感じる。単にわちゃわちゃして「楽しそう」な映像が欲しいなら別にストーリーなんてなくてもいいと思っていたけど、存外そうでもないんだなと。

これはMVに限った話ではないけど、ストーリーはあくまでも事実の説明でしかなくて、そのストーリーをきっかけに登場人物の感情が変化するから引き込まれる。逆に、ストーリーが無くて登場人物の感情だけを表現しても説得力に欠けるし面白くない。

ここでは「お立ち台」にまつわるストーリーで、彼女たちが「笑顔で踊る」から魅力的なんだと思う。

 

あと、映像としての演出も「愉快」に多大な影響を及ぼしているように思う。

とにかくカメラが動くし、その動き自体に「意味」は(おそらく)なく、映像に緩急をつけて「愉快」をうまく作っている。「やっぱりFIXはもう無理なのかもな」と思ってしまった。極め付きは映像の速度を変化させてさらに「愉快」を生み出すところだ。各メンバーがお立ち台で踊っているシーンでは紙吹雪やテープが舞っていて”ここぞ”というタイミングでスローがかかる。激アツである。ラスサビではムービングライトの演出だがこれも良い。色が良いし、中心にぐわって集まる演出も好き。

 

なにより全編通してメンバーの表情が活き活きしている。個人的には賀喜、清宮、掛橋、筒井あたりの表情がめっちゃ刺さった。全てのメンバーの表情の魅力がぎゅっと詰まったワクワクするMVだった。

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(あと本編後のNG集エンドクレジットが個人的に好きな演出だった。俺もやりたいやつ。) 

最高すぎるのでみんなに見て欲しい。

川が好きだと言う話

昨年末に東京の川をモチーフにした作品を出したので、今回は河川が好きだという話をしたい。ちなみにこの作品は落合先生の授業の成果物で、先生の評判は結構良かった。機会があればまたどこかでやってもいいかな、とか思っている。


暗転と永遠の中で。

 
川にはいろんな要素がある。流れとか境界とか。とりわけ東京の川に限っては暗闇という重要な要素を持ち合わせている。
東京は基本的に眠らない。中心街はネオンが光っているし、住宅街も街灯と家の明かりが深夜までついている。
そんな東京にも暗闇があってその1つが川だ。石神井川とか目黒川とか、或いは渋谷川とか。深く冷たいコンクリートの壁に押し込められその底を静かに流れている川たち。東京の端っこに追いやられてしまった暗闇がそこにあるように思う。
人間は暗闇を消してきた。街からそれを排除するにつれて人は眠らなくなった。休まなくなった。人間の生物的な歩みと文明の進歩は、そのペースが全く噛み合っていない。本当に噛み合っていないのだ。本来であれば人間には暗闇が必要で、僕たちには休息と区切りが必要だ。
暗闇は区切りである。映画にしろ舞台にしろ、暗転は時空間を飛び越えるためのアイテムとして用いられる。僕たちにとって暗闇とは1日を終わらせ、朝を始めるための重要な要素なのだ。
 
僕は11月頃にGoogle マップを見ることにハマっていた。コーヒーを飲みながら、小さな画面に映る地図を覗き込んでいると、川は県境にあることに気がついた。川は、そう!境界!
いやいやいや、本当は境界として川が選ばれるだけだけなんだけど。
電車に乗りながら川を越えると都市構造が変わることに気がつく。東京から抜けると住宅街の中に工場や倉庫が増えてくる。家と家の間隔が広がり、コンビニの駐車場が広くなる。
都市の形って結構違くて面白い。六本木ヒルズの展望台から見下ろす景色は、一面のビル。その中に埋め込まれたかのように学校のグラウンドがある。ところが札幌のテレビ塔に登って街を眺めると、ビルと山のある風景が広がっている。
 

川には水が流れている。水は地球の上で循環している。僕たちも同じように巡っている。今年も春が来て、ゴールデンウィークは何連休だとかの話題で盛り上がって、夏休みになって、クリスマスがやって来て、間もなく正月が来る。

僕たちは去年のクリスマスを思い出すことができる。1日がまわって、1年が巡ってくる。その中でいろいろなことを考えたり、いろいろな人と出会う。そうすると意外にも僕たちは同じようなことを考えたり、悩んだりしていることに気がつく。僕たちは僕たちなんだなと、少しだけ嬉しくなる。